Wednesday, November 30, 2005

 朝 モスクワ煙草工場に働いているニーナは、例によって枕元の眼醒ましの音でハッと目をさました。 いそいで服を着て、水道の冷たい水で顔を洗い、冷水摩擦をやっているうちに、ニーナはだんだんうれしい心持になってきて、思わず小声で「インターナショナル」をうたいだした。 今日は三月八日だ! 女の日だ。世界の働く婦人たちが手をつなぎ、プロレタリアート・農民の解放と、ソヴェト同盟の守りのために示威する国際婦人デーだ。 モスクワの三月といえば、まだ冬だ。ニーナは、寝室の下から長い防寒靴を出してはき、頭を暖かい毛のショールできっちりくるむと、雪の凍っている往来へでた。寒さでニーナの頬っぺたが忽ち赭くなる。息は白く見える。同じように白い息をはきはき、大勢の男や女が勤めへ向って急ぎ足で歩いている。 今朝は、いつもと違って郵電省の立派な入口に、幾条もの赤旗が飾られている。勢いよく走ってくる電車の屋根に、赤い小旗がヒラヒラしている。 どの女も、今日はどこやらいきいきしているようではないか。 ニーナの乗ろうとする電車は相変らず満員だ。一台やり過した次の車も満員なので、ニーナは待ちかねて、やっと車掌台へ片足かけ、顔をあおむけて、「みなさん! もう少し詰めて下さいヨ! 私これに乗らなけりゃ工場へおくれるんですから!」と叫んだ。両手で金棒につり下ってやっと自分も車掌台に立っている労働者が、「おい、一足ずつくり合わしてくれ! さもないと娘さんがふり落されるぞ!」と陽気にどなった。「オーイ、今日は女の日だ! 詰めろ、詰めろ!」どっと群衆が笑い、ニーナも笑いだしたが、いつか本当にみんなが詰めてくれて、やっとニーナは安全に電車にのれた。

0 Comments:

Post a Comment

<< Home